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ライフスタイルのみで糖尿病の予防はできるのか?

DPP (糖尿病発症予防プログラム) Knowler et al. NEJM 2002; 346: 393–403.

LM (Lifestyle Medicine) では可能な限り

推奨する内容を決定しています(*)。

科学的根拠(エビデンス)をもとに

* EBM(Evidence-Based Medicine)と呼びます。

* EBMの基本については別記事をご覧ください。

何を科学的・統計学的に証明したのか?

過去、現在、未来にどのような意味をもつのか?

試金石となった研究を読み解きます。

DPPの位置づけ

DPPは『Diabetes Prevention Program』という

糖尿病の発症予防に関する研究です。

DPPRG (Diabetes Prevention Program Research Group)

という、アメリカ全土の大学病院を主体とした

巨大なグループによる共同研究になります。

衝撃的な結果のみならず、10年後と15年後に

追跡結果が発表されている点もこの研究の

意味づけを高めているといえるでしょう。

NEJM(New England Journal of Medicine)という、

臨床系医学雑誌の最高峰に掲載されたことからも、

実際の患者さんにすぐに適用できるほどの

インパクトを残した研究であるといえます。

DPPの背景

肥満とともに、糖尿病患者数が爆発的に増え始めた2000年代アメリカ。

糖尿病患者数は全人口の8%に達する勢いでした。

(ちなみに現在は15%程度です)

https://www.cdc.gov/diabetes/statistics/slides/maps_diabetesobesity94.pdf より引用

『糖尿病患者数をどうしたら減らせるのか?』

という疑問に、頭を悩ませる医師・研究者たち。

『すでに糖尿病の患者さんの進行を食い止める』

のはもちろん、しかしそれと同じくらい、

『糖尿病予備軍の人を糖尿病にしないこと』

が重要なのは明白でした。

予防方法として当時考えられたのは、

  • 健康的なライフスタイルの維持
  • 投薬(メトホルミン)による予防

です。

ライフスタイル、具体的には食事や運動習慣を改善すれば

糖尿病を予防できるのは、1997年と2001年の研究で示されていました。

しかし、これらの研究ではクスリによる予防は検討されておりません。

健康的なライフスタイルの維持は理想的ではありますが、

アメリカでは実際にそれを実現・維持するのが難しかったのです。

なぜでしょうか?

アメリカは大きな国土に多様な人種や文化が混在しており、

経済格差も教育格差も地域差が非常に大きいです。

つまり、遺伝や環境の違いが大きく、考え方も十人十色、

たとえお金のかからない有効な方法があったとしても、

万人ウケする方法とはいえなかったからです。

『がんばって生活スタイルを変える?

 クスリを毎日飲むほうがラク!』

こんな考え方が今でも蔓延しています。

こういう背景のもと、クスリの効果を証明する

目論見を含みつつ、DPPが実施されたのでした。

DPPの命題

The major risk factors that cause and progress type 2 diabetes are lifestyle-related and thus are modifiable.

『2型糖尿病の発症と進行の危険因子はライフスタイルに関連しており、

すなわち修正可能である。』

Knowler et al. NEJM 2002; 346: 393–403.

DPPの方法

DPPのサイトに研究のプロトコールなどが詳説されています。

いつ:1996年〜1999年

どこで:アメリカの大学病院・基幹病院(27施設)

誰が:Diabetes Prevention Program Research Group

誰に対して:3234人の糖尿病予備軍(IGT/IFG)*

  • *IGT: Impaired Glucose Tolerance
  • *IFG: Impaired Fasting Glucose

何を:治療的ライフスタイル介入vs メトホルミン vs コントロール

  • 治療的ライフスタイル介入(TLC: Therapeutic Lifestyle Change): 7%体重減を目指した低脂肪食+週150分の中等度の運動
  • メトホルミン850 mg 1日2回内服および一般的な食事運動指導**
  • 偽薬(プラセボ) 1日2回内服および一般的な食事運動指導**
  • **食事運動指導:USDA Food Guide PyramidおよびNCEP Step 1
  • 幻の第4群(Troglitazone治療)は肝障害の報告により1998年に中止

どのように:ランダムに3グループに割りつけ

何をみた:2型糖尿病の発症率(およそ3年後)

DPPの結果

患者背景:平均51歳, 平均BMI 34.0, 女性68%, 少数民族 45%

主な結果:(プラセボ vs メトホルミン vs TLC)

  • 追跡期間2.8年
  • 糖尿病発症率(年間100人あたり) 11.0 vs 7.8 vs 4.8
  • プラセボと比較してTLC 58%、メトホルミン 31%の相対的減少
  • 予防効果(1人の発症予防に必要な人数):TLC 6.9, メトホルミン13.9
Knowler et al. NEJM 2002; 346: 393–403. より引用・一部改変

DPPの私的解釈

著者の解釈:

TLCとメトホルミンはともに糖尿病予備軍が

糖尿病を発症するのを予防した。

TLCはメトホルミンよりも効果が高かった。

LM的な解釈:

3年という短期間でこれだけ効果に差があり、TLCとメトホルミンの効果は高い。

しかし、長期間みた場合も同じ効果を持続できるのかは評価できない*。

(*その後の追跡研究についてはこちらを)

また、このような短期間の効果が、長期的な合併症、たとえば糖尿病による細小血管障害や大血管障害、そして死亡率に影響するのかは不明である。

この研究の重要性は、

『TLCとクスリを比較』

『糖尿病の予防にフォーカス(アップストリームアプローチ)』

『多施設、多民族でのデータ(一般性が高い)』

という点にあると言える。

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