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Sat Fat はBad(悪者)か?

Sat Fat (サット・ファット)とは?

Sat Fat (サット・ファット)とは?

これは私が勝手につけた呼び名ですが、正式名称は

Saturated Fat (飽和脂肪酸)です。

医学栄養学ではBAD FATとして悪名高い脂肪の一つです。

諸悪の根源とも言われるTrans Fat (トランス脂肪酸) もありますが、こちらはWHOの大規模なREPLACE Trans Fat 運動をふくめ、大部分の国で制限されつつありますので、ここでは割愛します。

日本の農林水産省の見解についてはこちらを。

さて、なぜ飽和脂肪酸が悪者として認識されるに至ったのか?

ここではごく簡単にその歴史を紐解いていきましょう。

近代栄養学の発展に貢献しつつ、限界とも言われているパラダイムは、

『食物・食品を栄養素に分解してとらえる』

ことですが、その功罪については別記事をご参照いただくとして、

医学栄養学的な視点でSat Fatに関する知見を見直したいと思います。

Sat Fat が悪名を轟かせた一件- 七國志

黎明期のEBN(Evidence-Based Nutrition)のはしりとして名高い、

Ancel Keys教授によるThe Seven Countries Study (SCS):

The Seven Countries Study

is the first major study to investigate diet and lifestyle along with other risk factors for cardiovascular disease, across contrasting countries and cultures and over an extended period of time.

https://www.truehealthinitiative.org/news2019/ancel-keys-7-countries-study/ および https://www.sevencountriesstudy.com/ より引用

3大陸7か国16のコホート(中年男性を中心とした観察集団)を

なんと1958年から最大50年にわたって追跡し、冠動脈疾患(CHD)の

有病率、発生率、死亡率などを観察した大規模研究です。

原著は著名なCirculation誌で、実に200ページ以上にわたって

現在でいうプロトコールが詳細に記載されています。

ちなみに原著ではCardiovascular Diseaseと記載されていますが、

最近は冠動脈疾患を明確なターゲットとしたCoronary Heart Disease

という呼称を用いるようになっていますので、以下CHDで話を進めます。

この研究が行なわれた背景には、

CHD死亡率は国・人種より、食事やライフスタイルの影響を受けるのでは?

という仮説がありました。

当時アメリカをふくめた欧米諸国でCHDが

急速にひろまっていたことに対する警鐘、

日本のように当時CHDの少なかった国との違いを

見つけることが治療につながるのでは?という期待、

そして、日本人の欧米への移民が欧米人と同様に

CHDを発症することが観察されていたことなどから、

遺伝的・人種的要素よりも環境・ライフスタイルが重要

という推測がなされていたものの、答えは出ていませんでした。

興味深いことに、たとえば現在でも

サハラ以南のアフリカではCHDの発生率および死亡率は低い

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24267430

とされており、近代化の流れ、すなわちライフスタイルの変化が

人種や国を越えて影響をおよぼしていくことが推測されています。

ただ、現状では、この地域を中心とした適切なデータベースがなく、

国際的な協力による今後の疫学研究が重要になるでしょう。

SCSで観察された研究結果はたくさんありますが、

脂質とCHDに関連するデータのみ一部抜粋します。

SCS 5年時点のSat Fat とCHD発生率

Sat Fat摂取量とCHD発生率に正の相関

https://www.sevencountriesstudy.com/ より引用

SCS 25年時点のSat Fat とCHD死亡率

Sat Fat摂取量とCHD死亡率に正の相関

https://www.sevencountriesstudy.com/ より引用

SCS にはいくつか批判がありますが、まだEBMの概念すら

確立していなかった時期にこれだけ大規模、国際的、

かつ詳細な研究を行った功績はかなり大きいでしょう。

そして、批判が主にメディアなど、利権・利益相反に

絡んだ媒体からのものが含まれていることに要注意です。

これらの批判がKeys教授の死後に行われているのも残念です。

SCSサイドの反証は2017年に白書として公表されています。

ここで脂質とCHDに関してSCSでわかったことを簡単にまとめると:

  • Sat Fatおよび総コレステロール値がCHDの発生率と死亡率に相関
  • 前向き観察研究のデータの蓄積から、この関連が因果関係に近いと推測

さて、1992年にアメリカ農林省(USDA)はFood Guide Pyramidを発表します。

これはSCSの示唆するSat FatとCHDの相関を組み込んだわけではなく、

『種類を問わず脂質を減らし、かわりに炭水化物を摂る』

というコンセプトでした。

現在考えられる問題点

  • 脂質を減らすことを強調しているが種類については言及していない
  • 乳製品を推奨
  • 肉類と豆類が一緒
  • 野菜にポテトを含む

もちろん、1992年のものですから、現在わかっている

知見をもとに批判することはできません。

しかし、当時SCSにより地中海食の有用性も示唆されていましたし、

エビデンスをもとにせずこのような形になったのは、

各食品業界からの圧力(ロビィ活動)の影響

と揶揄されているのも仕方ないことですね。

このFood Guide Pyramidは広く学校教育で使われたため、

アメリカの現在の20から40代にはかなり刷り込まれているそうです。

実は、このFood Guide Pyramidの問題点は

その後の研究で答えが出ています。

Sat Fat は本当に悪者か?

Lancet 1987

Sat Fatの10%をOlive Oilに VS Sat Fatの10%をComplex Carbに

結果、どちらのグループも総コレステロール値は低下しましたが、

Olive Oil群ではさらに、悪玉であるLDLが低下しています。

SCSが世界の疫学研究に与えたインパクトは多大でした。

ただし、コホート研究ですので、相関を示せても、

因果関係までは示せないという事実があります。

因果関係を証明するのには実験研究、たとえば、

Sat Fat の摂取量が多い人と少ない人を前向き比較するのですが、

統計学的に意味のある差を出すためには、大規模かつ長期間の

追跡が必要ですので、事実上困難です。

このような場合の次善の策は大規模な前向き研究になります。

Sat Fat を取り巻く現状と未来

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